【勝てば勝つほど遠のく先発機会】
強いて懸念を挙げるとすれば、在籍するシント・トロイデンのホームである大王わさびスタイエンスタジアムが、天然芝ではなく人工芝だったことだ。
天然芝と人工芝とでは、足にかかる負担や疲労は異なる。練習では人工芝も経験していたが、やはりリバウンドがあったため、公式戦の強度と負荷に耐えられるか、一抹の不安があった。そのため、どうしても慎重にならざるを得なかった。
ワウター・ヴランケン監督に素直に思いを伝えると、ホームで行なわれるリーグ開幕戦での先発出場を回避することになった。ヴランケン監督は、「無理はしなくていい。シーズンは長いから徐々にやっていこう」と、僕の心境を理解してくれた。
そうした背景もあり、ベンチで迎えたヘントとのリーグ開幕戦に、チームは3-1で勝利する。その結果を受けてヴランケン監督からは、試合内容も伴っていたため、ひとりだけメンバーを入れ替えるのは難しいと伝えられた。
僕自身もその状況や監督の判断は、十二分に理解できた。
「常に試合に出る準備だけはしておきます」
ケガの影響で慎重になったとはいえ、自らほかの選手にポジションを譲る決断をしたわけだから、監督が下した判断に対して、僕が異論を唱えることはできなかった。チームは第2節のシャルルロワ戦に1-1で引き分け、その後は3連勝を飾る。5試合を終えて無敗と、しばらくメンバーが変わるようなタイミングは訪れなかった。
9月には日本代表の活動が控えていたこともあり、そこでの復帰も視野に入れていたため、はやる気持ちもあった。
当時の自分に与えられていた仕事は、試合終盤に途中出場して、試合を締めるクローザー的な役割。それ自体は貴重な経験として得るものもあったが、自分が役割を全うし勝利に貢献したところで、状況が覆るわけではない。勝利した試合で評価されるのは、あくまで先発出場した選手たちだからだ。
チームが勝てば勝つほど、自分が先発復帰する機会は遠のいていく。勝利はうれしい一方で、選手としては複雑な心境だった。